第83章 球技大会の予選と杏寿郎の懸念
(手を掴んだ。……無意識みたいだった。引き留めているような…。向こうで杏寿郎さんと出掛けた時に連れ去られた時があったし、こちらでも誘拐にあっているし、そういうのの不安からくるものなのかな…。)
桜の推測通り、杏寿郎の行動は無意識的な不安によるものであった。
だが 今出来る事は話し合って確認済みであり、杏寿郎自身も昔のように油断せずに守り抜くつもりでいる。
それでも訳あって不安が消えないのだ。
杏(これから起こるかも分からない事を不安に思うなど無意味だ。起きないように注意を払い、起きてしまえば冷静に最適な対処をするしかない。分かっている。)
杏寿郎はスッと瞼を上げると一生懸命自身の髪を乾かしている桜を見つめた。
桜は目が合うと少しほっとしたように微笑む。
杏寿郎もそれに眉尻を下げながら微笑み返した。
杏(だが、 "あれ" について桜と情報を共有する事が最適なのかどうかが分からない。)
杏寿郎が "それ" を知ったのは勇之とメッセージのやり取りを初めて間もなくの頃だった。
剣道の段位や鬼狩り時代の実績よりもそれが本題だったのだろう。
杏(………まさか桜を誘拐し、みのる君を殺した犯人がまだ野放しになっている可能性があるとはな。)
杏寿郎は嬉しそうにする桜の頬を礼を言うように撫でながら目を細めた。