第83章 球技大会の予選と杏寿郎の懸念
風呂上がり、杏寿郎は桜の細く柔く長い髪を梳きながらドライヤーを当て、目を瞑りながら気持ちよさそうにしている桜を愛でるように見つめていた。
杏(こうして動かないでいるとまるで人形のようだな。)
そう思うと目の前にいる桜が儚い生き物のような気がしてきて、その場に繋ぎ止めるようにパッと手首を掴んだ。
「……杏寿郎さん?」
ドライヤーの音に紛れて桜が呼ぶ声が聞こえた気がしたが、杏寿郎は無意識に掴んでしまった手を離すと再び何事も無かったように静かに髪を梳き始めた。
(……………………………。)
杏寿郎がドライヤーのスイッチを切ると桜はそれを受け取りながら杏寿郎を困った様に見つめる。
「何かありましたか?話してください。」
そう問われると杏寿郎は桜から目を逸らした。
杏「いや、気にしないでくれ。それより髪を頼む。」
そう言うと杏寿郎は話を終わらせる様に目を閉じてしまう。
桜はその頑なな様子に眉尻を下げながらもドライヤーのスイッチを入れて杏寿郎の髪を乾かし始めた。