第83章 球技大会の予選と杏寿郎の懸念
「ただいまですー。」
杏「はは、お疲れだな!」
そう言いながら後ろ手にドアを閉めると杏寿郎は何気無く桜の首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。
桜は目を見開くと急いで首を押さえて振り返る。
その顔には『信じられない』といった表情が浮かんでいた。
杏「何もそんな目で見なくとも良いだろう。まるで変態を見ているかのようだぞ。」
「へ、変態ですよ…。」
そう眉を寄せながら言われると杏寿郎は『よもや…。』と言って固まった。
桜はその隙に玄関に上がるとぱたぱたと駆けて行き、凄い速さで風呂に入ってしまった。
杏(1日の終わりが近付くと桜本来の香りが強くなる。それを嗅ぎたいと思うのはおかしな事なのだろうか……。いや、普通だと思わせてしまえば良い。)
相変わらずそんな狡い事を思いながら杏寿郎も風呂へ向かい、汗を吸った服を脱いでいった。
そして洗濯機へそれを入れる直前、ふと見えた洗濯機のその中身。
杏寿郎は淡い出来心から桜の脱いだばかりの服に手を伸ばした。
その頃、浴室に居る桜は容器を片手に眉尻を下げていた。
(コンディショナーの詰め替え忘れてた。確かすぐ外に…、)
―――ガラッ
桜がコンディショナーの詰め替えを取ろうと戸を開けると、裸で立っていた杏寿郎の手から桜の可愛らしいキャミソールがするりと滑り落ちた。