第82章 新しい外への向き合い方
杏(ああ、本当だな。)
杏寿郎も微笑むと『あまり顔を上げては愛らしい顔が見えてしまうぞ。気を付けて楽しんできなさい。』と返す。
桜はそれを読むとこくこくと頷いてから顔を伏せ、『分かりました!ありがとうございます。』と送った。
本当は桜を尾行しようか迷ったのだが、杏寿郎は敢えて1人で行かせた。
ただし同意の上でGPSの追跡アプリは入れてある。
杏(む、逆方向の電車に乗ったな。)
杏寿郎は桜が無事に駅についた事をメッセージとアプリで確認し、安心してアプリを落とそうとしたが、勢い良く目的地から遠ざかって行く桜を見て思わず笑みを漏らした。
それでも1人を味わって欲しくて指摘のメッセージを送らずにいると きちんと隣駅で引き返してくる。
杏(早めに出たので遅刻はしないだろう。レストランも駅中の建物にある。攫われることはない。)
杏寿郎は正しい電車に乗ったことを確認すると、少し迷いながらもアプリを落とした。
杏(私欲からは使わないようにしなくては。しかし電車は1人で使わせたくなかったな。)
杏寿郎は桜が痴漢に遭う可能性を考えて眉を寄せたが、生徒を見事に操っていた事を思い出すと桜を信じることにした。
―――
「あの、待ち合わせです。唯川で予約してあると思うのですが……。」
桜は帽子を取るタイミングが分からず、足しか見えない店員にそう伝えた。