第81章 友人の結婚式と杏寿郎の考え
「……男の人に捕まらないようになってからは自衛できているつもりでいたのですが、まだまだ周りの人に守られていたんですね。それなのに……、おしゃれして自由に歩けることが嬉しいだなんて………そんな脳天気なことばっかり考えてました。」
その元気の無い声を聞いて杏寿郎は思わず眉尻を下げた。
杏(『自由に歩ける事が嬉しい』、か。今までの自覚の足らない行動も舞い上がっていた気持ちが底にあったからなのだろう。)
杏「……弱ったな。」
「…………え?……で、ですからこれからは、」
杏「嬉しかったのだろう。普通の人間が息をするように当たり前に出来ている事が。そのような事が嬉しかったと聞くと悲しくなる。」
「…………………………。」
(杏寿郎さんが悲しむ必要なんてないのに……。)
桜も杏寿郎の考えが分からずに眉尻を下げた。
「あの……じゃあもう言わないです。別におしゃれをする必要も、そのまま1人で歩く必要もないですし、本当に全く困らないです。気にしないでください。必要なら2年前までみたいに帽子を被って、」
杏「桜。」
杏寿郎の芯の通った静かな声が浴室に響くと桜は肩を揺らして固まった。