第81章 友人の結婚式と杏寿郎の考え
杏「とにかく桜はこうしなければ駄目なんだ。では失礼する。」
「あっ、宇髄さん、ありがとうございました!また職場で会いましょう!」
それに天元は手をひらひらと振って答えた。
「ごめんなさい。杏寿郎さんの気持ち、見落としていました。」
杏「君を隠したいと思う俺の気持ちについてか。」
「はい……。」
杏寿郎はタクシーに手を上げて止めさせると桜に手を貸しながら先に乗らせる。
桜をミラー越しに舐めるように見つめる運転手から桜を隠すように杏寿郎もすぐに乗り込んだ。
そしてマンションより手前の建物まで行ってくれるように頼む。
(お家を教えない為だ…。)
タクシーでは結婚式について何てこと無い話をした。
そして指示した場所で降りるとタクシーが去るのを待ってから桜を抱え、大股の早足で歩き出す。
杏「先程の話だが、」
桜の心臓が跳ねる。
「……はい。」
杏「君が再び攫われ、警察でさえ居場所を特定出来ないまま月日が流れれば俺は…………。」
杏寿郎はその先を言わずに口を閉じてから仕切り直すように再び口を開く。
杏「只でさえあちらでも攫われた事がある。頼む、もう必要以上に目立ったりしないでくれ。」
「…………はい。…ごめんなさい。」
杏寿郎の胸に顔を埋めながらも桜がしっかりと謝ると、杏寿郎は纏う空気を柔らかくして桜の頭を撫でた。
驚いて顔を上げると杏寿郎はもう優しい顔をしている。
杏「だが、叱るばかりではなく礼も言わねばな。元は俺の失態で言われた悪口に君は怒ってあそこまで来てくれたのだろう?君が彼女達と対峙している時、宇髄に聞いた。」
「………………………………。」
杏「気持ちはとてもありがたいし嬉しく思う。だが、これからは堪えること。」
「はい……。」
桜は今の平穏な生活は杏寿郎が気を付けているからこそ守られているのだと自覚し、感謝と不甲斐なさから涙が溢れそうになるのを必死に堪えたのだった。