第80章 遅れたお祝い
桜は慌てて手元に視線を移したが、目が開いたその瞬間に目が合ってしまったので杏寿郎の顔を見ていたことはバレバレである。
杏「君は本当に俺の顔が好きだな!!」
「………………………………。」
聞こえる声を出せない桜はただただ髪を見つめて梳きながら顔を赤くさせた。
桜の誕生日は年末である。
無惨との最終決戦、12月28日の翌日であった。
その時 杏寿郎が用意していたのが今楽器部屋に大事に保管されているフルートである。
杏(しかしその時期となると桜は実家へ帰ってしまうだろう。一家団欒を邪魔するのは気が引けるな…。しかし当日に祝いたい。)
半年以上後の事を考えながら杏寿郎は『1人で歩けますよ。』と訴える桜を寝室へ運ぶ。
下ろす気が全く無かった上に考え事をしていた杏寿郎は桜の言葉に返事をせず寝室に入り、桜を優しくベッドへ下ろした。
「もう。」
桜はそう困った様に言って眉尻を下げながらも微笑んでいる。
杏寿郎がこうなる事はしょっちゅうあったからだ。
「杏寿郎さん、先に寝ちゃいますよ。」
桜は杏寿郎が反応してくれなかった時は、『1人で行っちゃいますよ。』『先に始めちゃいますね。』等といった物理的にも心理的にも "離れる" ような意味合いの言葉を投げかけるとようにしている。
効果抜群だからだ。
桜の言葉を聞いた杏寿郎の意識はパッと戻ってくる。
杏「1人にしてすまない!眠かったのか。……では…、」
「戻ってきて欲しかったからそう言っただけですよ。」
桜はそう言うと顔色を明るくさせた杏寿郎もベッドに座らせ、体を許すようにそっと寄り掛かったのだった。