第80章 遅れたお祝い
「そうですよ。ああいった演出をしてくれるレストランは他にもいっぱいあるみたいです。でも私はとにかく雰囲気を大事にしたくて…たっくさんの中からあのお店を選んだんですよ。」
そう言われると杏寿郎はスマホをいじっていた桜の真剣な顔を思い出して頬を緩めた。
杏「そうか…俺は本当に愛されているな。」
「…えっ」
今の会話でそこまで甘い声が出ると思っていなかった桜は思わず杏寿郎の頭を拭く手を止める。
杏寿郎はそれを見て笑い、タオルを回収して洗濯機へ入れた。
杏「おいで。君から乾かそう。」
そう言って杏寿郎はいつも通り桜の髪を乾かす。
乾かし終わると桜はドライヤーを受け取り、杏寿郎が向かい合って椅子に座り直したのを確認してからスイッチを入れた。
(本当 綺麗な髪……。)
ドライヤーをしている最中は桜の声が届かない為 2人は会話をしない。
杏寿郎は腕を組んで頭を差し出すように少し前屈みになりながら微笑んで目を閉じている。
(どこを見ても綺麗。杏寿郎さんの本当の魅力は内面にあるけど、それでも見た目が見惚れるほど綺麗なのもまた事実…。)
桜がぽーっと見つめながら杏寿郎の髪を梳いているとパチッと大きな目が開いた。