第80章 遅れたお祝い
特に最後の腕時計に関しては反応さえ妙だった故に桜の眉尻は不安そうに下がった。
「あの……私、プレゼントの選択を間違えてしまったでしょうか……。」
その不安そうな声に杏寿郎はどこか黒い笑みを浮かべながら顔を上げて目を細めた。
杏「いや、身に付ける物を贈るのは独占欲の表れだと聞いたことがあったのでな。君に関しては違うかもしれないが それでも嬉しくなってしまった。ありがとう、桜。とても大事にする。」
「独占欲……。」
桜はぽかんとしてそう繰り返した後、確かに自身が "いつも付けてくれるかどうか" にこだわっていた事を思い出し真っ赤になった。
それを見て無自覚でもそういった欲を持ってこの3つのプレゼントを選んだのだと確信した杏寿郎は再び微笑んで『君は本当に愛らしいなあ…。』と呟いた。
それから2人は代行サービスを呼ぶことにして少しだけ酒を飲み、そしてこんな日でも杏寿郎が食事代を支払う役を頑として譲らなかった為に最後は少しだけ揉めながら家へ帰ったのだった。
家のドアを閉めるとすぐに杏寿郎は桜を後ろから抱き締めた。
その腕には既に貰った腕時計が付けられている。
桜は微笑んでその時計を撫でた後 杏寿郎の腕の中でもそもそと半回転し、きちんと抱き締め返した。
「遅くなっちゃって本当にすみません。……挽回、出来たでしょうか…。」
杏「遅れた事など綺麗さっぱり忘れる程に嬉しかった。これからはほぼ一日中、君からの贈り物と共に過ごせるな。」
そう言うと杏寿郎は体を離して桜に礼を言うような慈しむような優しいキスをした。
仄かに自身が飲んだ物とは異なるワインの香りがして桜は少し酔いそうな感覚に陥った。
杏「明日も休みだな。少し……長く愛しても良いだろうか。」
「もちろんです。お誕生日の振替日ですから。」
桜がそう快諾すると 杏寿郎はプレゼントを机の上へ大事そうに置いてから桜を抱き上げ 颯爽と風呂へ運んでいったのだった。