第80章 遅れたお祝い
店員がバースデーソングを歌い出すと他の客も一緒に手拍子を打ってくれる。
チラッと杏寿郎を見ると彼もその1人で誰に渡されるのだろうと微笑みながら見守っていた。
しかしケーキはそんな杏寿郎の元へと運ばれてくる。
"杏寿郎さん" という長い名前を無理矢理入れたバースデーソングが終わり、桜は湧き上がる拍手を聞きながら目を丸くしている杏寿郎に花咲く笑顔を向けた。
「遅れてごめんなさい。お誕生日おめでとうございます、杏寿郎さん。ケーキ、頑張って作りました。どうぞ食べて下さい。」
杏寿郎は一瞬ぽかんとした後ガタッと席を立ち、駆け寄って桜を抱き上げた。
「きょ、杏寿郎さん、ここレストランです!」
杏「ありがとう、ありがとう…!!こんなに嬉しい誕生祝いは初めてだ!!!」
そう言うと感極まった杏寿郎はキスこそしないものの桜の頭にグリグリと頬擦りをする。
その喜び様と桜の赤い顔を見た店内の人々はただ温かい笑みを漏らし、そして桜が真っ赤になって焦れば焦るほど誰も杏寿郎を止めてくれなかったのだった。
―――
杏「君は料理だけでなく菓子を作る腕も良いなのだな。店で売っていそうだ。それに芋のクリームが入っているようにも見えるぞ。」
「お芋入れてます!腕は分かりませんが喜んでもらえたら嬉しいです。」
(わっしょい出るかな…。)
1口目を頬張る杏寿郎を桜は微笑みながら見守った。
杏「わっしょい…!!」
控えめに漏れ出た "わっしょい" に桜はゆるゆるの笑顔を浮かべる。
( "うまい" に加えて "わっしょい" も静かなモードを習得してる…かわいい……。)