第80章 遅れたお祝い
(杏寿郎さんがお箸使わないのはまだ見慣れないな…。)
桜が見惚れる先で杏寿郎は綺麗な手付きでイタリアンを食べている。
(こんなに格好よくて優しくて素敵で…私は幸せ者だなあ。)
杏「桜?手が止まっているが腹が減ったのではなかったのか。それとも空き過ぎて食べられない程に具合が悪くなってしまったのだろうか。」
「い、いえ!ただ杏寿郎さんが格好いいなあと…!」
決して小さくはないテーブルで向かいの杏寿郎にそう言うと 静かめな店内にその声は響いてしまった。
杏寿郎は『そうか!ありがとう!』とあっさり明るく返したが桜は真っ赤になってしまった。
(お酒飲まないようにしよう…。いっぱいいっぱいでこのままじゃ酷く酔ってしまいそう。)
そうして緊張していたが、杏寿郎の笑顔に何度も救われて調子を取り戻した桜は楽しくディナーを終え、敢えて軽くしてもらったデザートも食べ終わった。
そして深呼吸すると店員に視線を遣り、きりりとした顔でこくりと頷く。
店員はそれに笑顔で頷き返した。
そして、最もベタなサプライズが始まる。
フッと店内が暗くなるとサプライズを知らない他の客が少しざわつく。
そんな中で杏寿郎だけが笑みを消してナイフを手に取った気がしたが桜は気付かなかった事にした。
すぐにロウソクの火に照らされたケーキが見えたからだ。