第80章 遅れたお祝い
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「それでね、ケーキは友達の家で手作りしてレストランに預けようと思ってるんだあ。」
早「あー、それいいね。どうせ持ち込み形式なら桜が作った方が良い。売ってるのと見分けつかないくらい見栄えも味も良いの作るし。」
「そんな…パティシエさんには頭上がらないよ。」
2人は買い物を終えると予約したというレストランの前をゆっくりと歩きながら中を覗き、『いい雰囲気でしょー。』『桜にしてはムードある所選べたね!』と笑いながら帰路についた。
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「ただいま帰りましたー。」
杏「桜、おかえり。…楽しかったか。」
「はい!!」
そう答えながら桜はプレゼントを後ろ手に持って隠す。
杏「……どこに行っていたのか、誰と会っていたのか訊いても良いだろうか。」
「あ…………えっと、それは…、」
途端に桜は笑顔を曇らせ、分かり易く動揺して目を泳がせた。
杏寿郎はそれを見て少しもやもやとした感情を抱いたが、実弥と桜を信じて笑顔を作る。
杏「いや、楽しめたのなら良い。早く上がると良い。昼から出て疲れたろう。」
「あ、はい!」
桜は息をつきながら杏寿郎が引き下がってくれた事に感謝したのだった。
夕飯時より2時間前、桜は鼻歌を歌いながらいつもより多い時間を掛けて夕食を作っていた。
プレゼント達は杏寿郎が出入りしない楽器部屋に隠してある。
「杏寿郎さん、次の週末は一緒にいましょうね!」
そう笑顔で言われると、上機嫌で料理をする桜をソファから眉尻を下げて見つめていた杏寿郎はパッと表情を明るくさせた。
杏「うむ!!勿論だ!!!」
その元気な返事を聞いて桜も心底幸せそうに微笑み返すと杏寿郎のもやもやとした気持ちはすっかり消えてしまったのだった。