第79章 サイコロステーキ先輩
そして杏寿郎への絶対的信頼から まずそちらの心配をする桜に思わず微笑む。
佐「無事とは言えませんでした。でも無理強いはしていませんでしたし、正々堂々とした試合でしたよ。何故か左小手ばかり狙っていましたが。」
それを聞くと桜はハッとして自身の左腕を掴んだ。
そして眉尻を下げながら笑う。
「そっか……彼らしいねえ。」
佐「はい。部員一同、尊敬しています。有り余る熱意に死んでしまいそうになる時も多々ありますが。」
そんな傍から聞いて平和に聞こえる会話をすると、2人は笑い合った。
(結局また杏寿郎さんに尻拭いをさせてしまったなあ……。お礼を言わないと。お夕飯にもお芋を入れよう。)
再び手を煩わせてしまったものの、桜は胸が温かくなったのを感じたのだった。
―――
「煉獄先生、お待たせしました!」
桜は部活の挨拶が終わると鍵を顧問の響凱に任せ、すぐに音楽室の入り口に立つ杏寿郎に駆け寄る。
杏寿郎はただにこっと笑って『全くもって待っていない!!』と言い放った。
―――バタンッ
杏寿郎が運転席に乗り込むと桜は微笑みながら杏寿郎の顔を覗き込む。
「最近ネットで出回っている動画、知ってます?自信満々の男性が面白くって相手の男性はとっても格好いいんですよ。」
杏「動画?知らないな。」
杏寿郎は "とても格好いい" というワードに眉を寄せるとエンジンをかけるのを止め、桜が差し出したスマホを見つめた。
そしてすぐに冷や汗を流し始める。
それを見て桜はくすくすと笑った。
「怒ったりしません。正々堂々とした試合だったと聞きました。……ありがとうございます。左小手をいじめ抜いたんですよね?」
杏「よもや、そこまで知られているとは……。」
「ふふ、私のボディーガード様はとっても心強い。」
それを聞くと杏寿郎は苦笑いしながら『独占欲も含んだ行動なのであまり褒めないでくれ。』と言いながら車を出した。
そうしてサイコロステーキ事件は "杏寿郎の誕生月であった5月の末に" 一件落着したのだった。