第79章 サイコロステーキ先輩
澄「は!?撮ってたのか!?」
生徒「先生同士の試合は勉強になると思って…。でも、なあ…?」
生徒「うん。剣道ではなく人としての振る舞いについて勉強になりました。」
澄滴は部員達からスマホを取り上げようと急いで駆け寄ったが大股で歩いてきた杏寿郎がその間に入る。
杏「この子達にも手を出すつもりか。次は右小手に貰いたいようだな。」
そう言って杏寿郎が部員達に向かって上げていた澄滴の右腕を睨むと、澄滴は初めて何故左小手ばかり狙われていたのかを悟った。
答えない澄滴に杏寿郎はスッと目を細める。
杏「聞こえなかったのか。次は右で良いのだな。」
澄「ひッ」
澄滴はその場で尻もちをつくと、杏寿郎の酷く冷たい瞳に震え上がった。
その表情は後ろにいる部員達には見えない。
澄(こんな事になるなんて…、仕事も失って女もプライドも………、)
澄滴は心が折れる音を聞くと立ち上がってフラフラと道場を出ようとした。
その後ろ姿に杏寿郎が明るく朗らかな声を掛ける。
杏「退出の際にはきちんと道場正面に礼をして右足から出ること!!」
澄滴は俯いたまま振り返ると大人しく礼をし、顔を伏せたまま去って行った。
それを見届けると部員達は先程の試合の意味について聞きたそうに杏寿郎を見つめる。
杏(無理に聞こうとしないか。我が生徒ながら良い子達だ。)
杏「佐々木!審判をしてくれてありがとう!!皆も道場を貸してくれて感謝する!!!」
「「「はい!!!!」」」
杏寿郎はチラッと澄滴が出て行った出口を一瞥するとすぐに部員達に視線を戻した。
杏「賽子先生は今日でこの学校を離れる。俺から詳しい事は勝手に言えないが、先程の騒ぎは非常に私的な理由で俺が賽子先生に試合を申し込んだ結果だ。話せるのはここまでだ!巻き込んでおいて全て話せずにすまない!!では練習を始めるぞ!!!」
飲み込むのに少し時間を要した部員達は一拍遅れて返事をし、『む、気合いが足りないぞ!!!』と杏寿郎に喝を入れられたのだった。