第79章 サイコロステーキ先輩
「……賽子先生もいなくなった後に私が抜けたら校長先生にも迷惑をかけちゃいますしね。」
話し合いの最後、桜はそう言って諦めたように微笑んだ。
杏寿郎も本当に本当に正直なところは桜に家庭に入ってもらいたかったのだが、桜が折れてくれてほっとしていた。
杏(1年足らずで辞めればきっと後々悔やむことになる。幼い頃より抱いた夢を出来る事なら奪いたくはない。俺の気持ちは二の次だ。)
杏「では桜、上書きをするぞ。華を散らされたと言っていたな。昨晩も断ったという事はまだ残っているのか。」
「えっ!?」
そうして切り替えの速さについていけていないまま 桜は杏寿郎によって風呂へと連行されたのだった。
杏寿郎は文字通り華に上書きをし、舌を噛んだ事や股間を蹴り上げた事について何度も桜を褒めて撫でた。
杏「きちんと冷静でいられたのだな。偉いぞ。」
「きょ、杏寿郎さん、褒めすぎです……。」
杏「いや、普通なら手遅れだった。あんな痣を残せる程の握力を持った男相手によく頑張ったな。大正時代で培った努力が報われたのだろう。」
あまりにも杏寿郎がそう言って褒めるので、桜は杏寿郎の気持ちの心配をし始めてしまう。
「…………無理、してませんか…?」
それに杏寿郎はきょとんとした顔をしてからにっこりと微笑んだ。
杏「していない!君はベストを尽くした!!それを知って俺はとても嬉しく思ったし、少しばかり安心もした!……つまりは悪い点があるのはあの男だけなのだろう?」
「そ……ですね………。」
杏寿郎の黒い笑みを見ながらなんとかそう返事をし、桜は澄滴に向けて心の中で合掌した。
(殺されはしないでしょうが痛い目を見るでしょう。これからはもっと人の言う事に耳を傾けられる人間になってください。)