第79章 サイコロステーキ先輩
そしてそれは相手を思い遣っての意見であった為 余計に折れることが難しかった。
しかし――、
杏「第一、俺と君はまだ只の恋人だ!!婚約者でもない!そんな相手に易々と自身の人生を差し出して仕事を辞めようとする考えは改めた方が良い!!」
「…………なに…、言って……、」
杏寿郎は桜の為を思って考え改めさせようと そう指摘した。
しかし、桜からしたらパートナーとして距離を置かれたような、突き放されたような感じがした。
もちろん杏寿郎への信頼から すぐに『今のは自身を思い遣っての言葉なのだ』と分かったが、言葉に詰まってしまい リビングには気まずい沈黙が流れてしまった。
杏「桜…、今のは、」
「大丈夫です、分かってます。杏寿郎さんの一途な面は誰よりも信頼してますし、私だって離すつもりはさらさらありませんので問題ないです。……でも、びっくりしました。確かにそうですね。」
桜の冷静な言葉を聞くと杏寿郎は安堵の深い溜息をついた。
杏「俺も江ノ島へ行った時に気付いたばかりだ。本当はもっと特別な場所でその事を伝えて…そしてプロポーズをするつもりだったのだが、完全に失敗してしまったな。前世でもなかなかに酷かったろう。」
落ち込んだ声を聞くと桜は毒気を抜かれて柔らかい空気を纏った。
「酷くなかったです。十分嬉しかったですよ。でも今世のはまだですから…杏寿郎さんが満足するような素敵なプロポーズを期待しています。」
その柔らかい声音に杏寿郎の表情も柔らかくなる。
杏「ああ、期待していてくれ。―――だが、」
「ええ。」
「「話はまだ終わっていない(な)(ですね)。」」
それから少し冷静さを取り戻した2人はきちんと話し合いをした。
そして結局は桜が折れ、ひとまず最低でも1年は続けることとなった。