第79章 サイコロステーキ先輩
「杏寿郎さん!連絡しなくてごめんなさい。……ちょっと大事なお話をしてて…。」
そう言って眉尻を下げつつ桜はどこかスッキリとした表情で謝る。
部活前に渡せなかった録音データとレポートをあまねについさっき届けてきたからだ。
あまねはそれ等をチェックすると微笑み、『あとはお任せ下さい。』と言った。
(これで平和な学校生活になる…!)
杏(何をしていた。何故あいつと話す。何をされた。何故俺を頼らない。…何を考えているんだ。)
杏「………早く乗ると良い。」
そう言って助手席を開けた杏寿郎の笑顔はどこまでも優しかった。
しかし、杏寿郎は暫く無言で運転し、そして家に着く直前にやっと口を開いた。
杏「………今日は君を抱くぞ。生理は嘘だろう。」
「え……、」
杏寿郎の柔らかい筈の声に恐ろしく冷たい物を感じて桜は喉が締まるのを感じた。
一度言葉にしてしまえば後は止まらなかった。
杏「4日前、君のボタンが取れていたシャツを見た。ファスナーが壊れたスカートも、破かれたストッキングも、君の腕に付いた男の手の痣も。俺は全てあの日に見たぞ。隠していたつもりか。」
杏「それなのに何故君はあの男から距離を取らない。何故俺を頼らない。何故俺に上書きをさせない。すぐに俺を求めるべきだろう。頼るべきだろう。」
杏「恋人とは何だ。その様に気を遣われる事など俺は望んでいない。毎晩一緒に居ながらただ寝ている君の腕の痣を撫でる事しか出来なかった。君にとって俺は、」
「す、ストップ!!!」
その声で珍しく感情的になっていた杏寿郎はハッとし口を噤んだ。