第79章 サイコロステーキ先輩
(こんな事されちゃ流石に一緒に働けない。校長先生にも理事長にも相談してみよう。……杏寿郎さんには…伏せといた方が良さそうだな…。本当に殺しちゃう。)
桜は壊れたファスナーの代わりにソーイングセットから安全ピンを取り出すと スカートを留め、シャツに不釣り合いなボタンを飛び飛びに縫い付けてから家へと急いだ。
杏「…………お帰り。」
「う、うん、ただいま。」
杏「同期飲みはどうだった。」
「…………うん。ふつう、かな…。」
パタパタと足早に洗面台へ向かう桜の後ろ姿を燃える瞳が見つめる。
迎えに行こうとして連絡のつかない桜の代わりに ちえに連絡したところ、桜が澄滴と共に欠席していると言われたからだ。
杏(安全ピン…?ファスナーが壊れたのか。あのスカートはまだ2回しか着ていない筈だが。)
杏「桜、」
「あ!あの……、お風呂入ってもいいですか?疲れちゃって!」
体を触られた気持ち悪さから桜がそう言うと杏寿郎は黙って頷く。
杏「……………………………………。」
脱衣所の明らかに1度ボタンが取れたシャツと 屑入れの中に捨てられたストッキングの破れ方を見ると、他の男に何かされた事を察した杏寿郎の中で激しい怒りが渦巻いた。
杏(あの雰囲気……桜は梃子でも話さないだろう。…だが、心当たりは1人しか居ない。)
そう思うと杏寿郎はストッキングを再び屑入れの中へ落とした。
その日、桜は杏寿郎の誘いを断った。
胸元にキスマークを残されてしまったからだ。
杏寿郎は『生理なの。』と言われると明らかにおかしい周期である事を指摘せず、『そうか。』と怖いほど静かに引き下がった。