第78章 江ノ島観光
それからペンギンの水槽の前で杏寿郎が『やはり君に似ているな!』と尻込みをしながら結局飛び込みに失敗したペンギンを指差すと桜は頬を膨らませた。
杏「褒めている。愛らしいだろう。」
杏寿郎は杏寿郎で全く反省していないような笑みを浮かべながら桜を見つめ返した。
杏「もうすぐイルカショーの時間だ。そろそろ君は座った方が良いだろうし早めに席を取りに行こう。」
手を引かれる直前まで桜はまだ頬を膨らませていたが、 "イルカショー" と聞くとすぐに目を輝かせる。
それをチラッと見て杏寿郎は笑みを溢した。
そわそわとして待っていると大きな音の音楽が鳴り始め、桜はビクッと体を震わせる。
杏「はは!いよいよだな!!」
「はいっ」
イルカとトレーナーの絆を思わせるショーは見事で、ジャンプや芸をする度に桜は熱心に拍手をした。
最後にスピンジャンプをすると桜は興奮した様子で杏寿郎を見上げる。
「すごかったですね!言葉が違うのにとっても心が通じ合っていました!品川駅前の水族館とはまた違った魅力があります!!」
杏「うむ!!そうだな大変愛らしい!!!」
杏寿郎はそう "桜を" 褒めながら頭を優しく何度も撫でると、人が少し空いてから席を立った。
杏「…………………………。」
「…………?」
静かになった杏寿郎が見つめていたのはイルカショーの階段上にあったベビーカー置き場だった。
「……子供が産まれたらまたここへ来ましょうね。」
そう言われると杏寿郎は少し驚いた顔をして振り返り、すぐにパッと明るい笑顔を浮かべた。
杏「うむ!!約束だぞ!!!」
その嬉しそうな笑顔に桜は少しだけ胸がきゅうっと痛くなった。
(今すぐ応えてあげたいけれど、まだ家庭に入るわけには…、)