第15章 兄弟の想いが詰まった晩酌
廊下で力尽きている桜を見つけた千寿郎はなんとか近くの部屋へ連れていき、水を渡す。
桜は舌でなんとか飲もうと試みると、前よりも少し上達した気がした。
千「…何事もなく終わったようですね。」
千寿郎は、疲れながらも安堵したような緩んだ空気の桜を見て言った。
「うん…。千寿郎くんが言った通りお館様すっごく優しかった…。」
ふわっと人の姿に戻ると、"ありがとう" と言いながらぽんぽんと頭を撫でる。
千寿郎は大人しく撫でられながら微笑むと、"少し待っていてください!" と言い部屋を出ていった。
桜はそれを見届けながら、これからについて想像した。
(杏寿郎さんの任務へ同行…さすがに今夜からではないだろうけど、いつから…?私はどのくらい強くなったら役に立てるんだろう…。)
ぼんやりそう思っていると、襖の向こうの千寿郎から声をかけられる。
部屋へ入って来た千寿郎は手に何かを持っていた。
千寿郎はそれを差し出して言った。
千「兄上がこちらのお酒を桜さんに、と。」
「あ…ありがとう…。帰るのに必死で忘れてた…。」
受け取った高そうな酒を見ていると、千寿郎の視線を感じて顔を上げる。
「千寿郎くん…。」
声をかけると千寿郎は少し体を揺らした。
(お父さんの事…聞きたいのかな……。)
桜は黙って千寿郎を見つめる。
千「……ち…父上は…っ……、」
思い切ったように声を上げるとスッと視線を落とし、膝に置いた拳をぎゅっと握った。
千「…父上は、昨晩、ど…うでした、か……。」
ちらっと顔を上げた千寿郎の眉尻はひどく下がっていたが、目は期待と不安が入り混じった色をしていた。