第14章 初めての街
「わ、分かりません…。ですが、私に害があることはユキが何かしらの反応をすると思うのですが…それもないです…。」
そう言いながら桜は自身の胸に意識を向ける。
やはりそこは穏やかで "何も心配いらない" と言っているように思えた。
杏「会話はできないと聞いたが、何かしら意志の疎通はできるのか?」
「あ、はい…。胸にいるので、温かくなったり、なんとなく感情が伝わってきたり…。」
杏(ユキか…会話ができれば話が早いのだが…。)
杏「そうか!分かった!この話はこれで終いにしよう!」
パッと空気を変えて杏寿郎が立ち上がった。
「は、はい!!!」
桜もその切り替えの速さに驚きながらもバッと立ち上がる。
杏「ここからは桜も一緒に走るか!」
キリッとしたいつもの笑顔を向けられて、桜の心が解れた。
「はい!!!!」
―――――――――
千「……えっ!?」
門前を掃除していた千寿郎が慌てて駆け寄ってくる。
千「ど、どうされたんですか…っ!?」
息も絶え絶えになっている桜を見て、千寿郎は声を上げた。
杏「ただ今帰った!!」
「た、ただ、ま……っ」
杏「桜!体は温まったな!冷えないうちに鍛錬をするぞ!!」
それを聞いて千寿郎と桜が体を揺らす。
千「兄上!どう見ても無茶です!それに今夜は任務があるのではないのですか?大人しく仮眠を取ってきてください!!」
杏「むぅ。」
杏寿郎は些か不服そうではあったが、諦めてくれたようだ。
「千寿郎くん…ありがとう……。」
よろよろと脚を拭こうとすると千寿郎が駆け寄ってきて手伝ってくれる。
千「いえ、すぐにお水用意しますね!」
てきぱきと脚を綺麗にし、ふわっと笑って廊下を走っていく。
(本当に良い子だなあ…。)
そう思いながら桜は千寿郎の元へ向かった。