第14章 初めての街
遠くを見つめるようにして先程の出来事を思い返す。
「そういえば…、興奮してたからかもしれないんですが、いつもの頭痛がしなかったです…。」
杏「頭痛?痛みを覚えるのは無理な治療のとき、尚且つ同じ箇所だと聞いたが、それ以外にもあったのか?」
「はい…ぐーって目を閉じれば耐えられる程度なので気にした事はなかったのですが…。」
杏「それがなかった、と。他には。」
「あっ…あと、弟以外に治すところを見せたのは初めてでした!……弟のときも頭痛はありましたが…。」
杏「痛み……。」
それを呟くと杏寿郎は大きな目でこちらを見つめる。
杏「桜。初めに君とこの力について話した時、俺が "神であっても出来ることではない" と言ったのを覚えているか?」
「は、はい…。」
(でも今回は小骨で…。)
杏「その時気になったのは、なぜ、桜がそんな事を出来るのか、だ。」
「なぜ…。」
杏「ああ。"出来ない事"が出来てる。前回話した事についてもまだ分からないのに、今回の事でもう一つ "出来ない筈の事" が見つかった。…いや、見落としていた。」
「今回は…小骨です……。」
杏「ああ。ユキなら治せるだろう。神だからな。そして、神は信仰されるから神の力が使える。」
杏「先程の男は君を信仰し、貢物も供えた。だから頭痛がしなかった。俺はそう思う。君は先程初めて、正しい力の使い方をしたんだ。」
杏「あの男以外に対して、信仰なく治療を施してきた事、これは "出来ない事" だ。痛みを伴うのは代償として何かを失う兆候だろう。そして、これも頭痛で済む話ではない。」
ぐっと桜に近付くと杏寿郎は声を低くした。
杏「頭痛の他に何を代償にしたのか覚えはないか。」
それを聞いて桜はぞくりとした。
「代、償………?」