第77章 ※天元の入れ知恵と小旅行への出発
杏(もっと真剣に呼吸の鍛錬をしてみようか。たったの6回で若干だが疲れを感じる。)
杏寿郎は記憶が戻ってからの2年、桜からの拒絶を忘れるように時たま呼吸の鍛錬を行っていた。
と言ってもそれはあまり真剣なものではなかった。
戦いを求められていない今の世で身体能力が上がりすぎると生きづらくなるからだ。
それでもマンションの15階から桜を抱えて飛び降り、直前で刀無しに技を放ち無事に着地する程度の事は出来てしまっている。
これ以上の鍛錬は良いものとは言えなかった。
「杏寿郎さん、今何考えてますか…?悪寒がしたのですが……。」
杏「大丈夫か?すぐに温かい茶を淹れよう。待ってい、」
「大丈夫です!」
桜は上半身を起こすと杏寿郎の腕を掴んで引き留め、過保護な杏寿郎に困った様な笑みを向ける。
「嫌な…予感がしただけです。何を考えていたんですか?」
桜の額に手を当てて熱を測りながら杏寿郎は難しい顔をした。
杏「呼吸の鍛錬をしようかと考えていた。随分と軟弱になったのでな。」
「……軟弱…………。」
桜はそう呟きながら杏寿郎の逞しすぎる体と腕を見つめる。
そんなことに気付かず、杏寿郎は『うむ、確かに熱は無いようだな!!』と満足気に言った。
「…杏寿郎さん、よくお昼休みに生徒達と遊んでいますよね。呼吸を習得してドッヂボールをしたら死人が出てしまいます。杏寿郎さんは手加減するの不得意そうですし……。」
杏「うむ、それはまずいな。やめておこう。」
自身でも手加減が苦手だという自覚があったのか あっさりそう言うと杏寿郎は桜を抱き寄せ、ごろんっと自身が下になるように布団へ倒れ込んだ。
桜は礼儀作法がしっかりとしている杏寿郎のそんな子供っぽい仕草を見て、少し面白がるような目をしながらずり上がり 杏寿郎の顔を覗き込んだ。