第77章 ※天元の入れ知恵と小旅行への出発
「痛くなかったですよ。でもありがとうございます。杏寿郎さんはいつも私を大事にしてくれますね。」
杏「大事に出来ていない。痛くない筈がないだろう。手首もこんなに赤くなっている。」
足は良く見えなかったのだろうと思った杏寿郎は桜の細い手首を持って桜に見せた。
「……見た目だけです。またやっても、」
杏「駄目だ、もうやらない。疾うの昔に俺はこの手の事に懲りている。華奢な君に肉体的苦痛を与える趣味はない。」
「むぅ。」
実はなかなかに楽しんでしまっていた桜は少し不満そうな声を上げる。
杏寿郎はその声色を聞くと考えを改めさせようとした。
杏「君は暴力に慣れすぎている。普通なら怒るところだぞ。」
「そんな事…杏寿郎さんが暴力だなんて…。それにあれだって正しい愛し方なのでしょう?他の女の人に出来てるのなら私だって、」
杏「確かに有名な愛し方だ。だがあの愛し方を選んだのは大きなミスだった。辱められながらも悦ぶ君の姿を見る方法は他にもある筈だ。先程の行為を悦ぶ女性もいるのだろうが、君は特に暴力に関して考えを改める必要がある。」
「こんなの暴力だなんていいません!杏寿郎さんはそんな酷い事はしていません!!」
桜はそう言うとほんのり赤くなっている手首を杏寿郎の目と鼻の先に突き付けた。
「痛くもないし、痺れてすらいないです!」
杏「だからそれは君が麻痺しているからだ!こんなに痛々しくて何も無い筈がないだろう!!」
2人は言い合いになってしまうと互いに眉を寄せ引き際を見失う。
平和主義である2人は 旅行という大切な時間なら尚の事すぐに切り替えて仲直り出来るような部類の人間だ。
だが相手の体や尊厳が関われば話は変わってくる。
杏寿郎は桜の体の為に譲る訳にはいかず、桜は桜で杏寿郎が暴力をしたとはとても認められなかった。