第77章 ※天元の入れ知恵と小旅行への出発
杏「恐らく君は顔を隠したかったのだろうが、ただ愛らしく甘えているようにしか見えなかったと思うぞ。」
「えっ」
杏「乗ってくれ。」
杏寿郎は例の如く助手席を開けると桜に入るように促す。
そして困惑する桜を乗せて有無を言わさず江ノ島へと出発した。
桜の気持ちはその行動力に付いていけていなかったが、ご機嫌な杏寿郎をチラッと見るとなんだかどうでも良くなってしまい 微笑みながら息をつく。
(……杏寿郎さんと一緒ならどんな失敗でもきっと楽しい。黙ってついて行こう。)
しかし、杏寿郎の計画は失敗ではなかった。
杏「駐車場は無いらしいのでな、手前の観光協会の駐車場に停めることになる。なので橋は渡れるが坂道は歩かなくてはならない。君は疲れているだろう、登れるだろうか。もし辛ければ俺が運ぶので遠慮なく言うんだぞ。」
「は……はい…。大丈夫ですよ。」
(駐車場は、ない?手前?)
杏寿郎の言葉に少し違和感を覚えた桜は首を傾げながらそう答えた。
杏寿郎は江ノ島に渡ってから車を停めると少し大きめなバッグを持って桜の手を握り、鳥居をくぐって江ノ島のメイン通りである坂道を上っていく。
桜はその道に並ぶ店を見るとすぐに目を輝かせた。
「わあっ!色んなお店があるんですね!確か上には神社もあると聞きました!!」
杏寿郎は途端に嬉しそうにする桜を愛でるように撫でる。
杏「ああ、見所がいくつもある。だが今日そこまで行くのは大変だろう。」
「今日……って、」
そこまで言われれば桜も察しがつく。