第2章 大切な記憶
―――どぼんっ
桜はあっという間に派手な音を立てて水へ落ちた。
「つ、つめた…っ」
一月の刺すように冷たい水に全身を包まれ、恐怖から震える声を漏らす。
(ふ、振り袖を脱がなきゃ…!死んじゃう!)
そう一瞬思ったが、手の届く距離に子どもと犬がいる事に気が付きハッとする。
痛いほどの冷たさに顔を歪めながらも、迷わず二人に手を伸ばした。
(…溺れる前に振り袖を脱ぐのは無理だ…!私……私は…、死ぬんだ……。それなら…!せめてこの子達を助けてから死にたい……!!)
手を当てて桜は息を呑む。
冷静に考えずに行動したとはいえ、それは無駄とも言い切れなかったのだ。
(この子の体冷たすぎる…!今にも死んでしまいそう…!)
桜が撫でれば体温も戻り、飲んだ水も吐ける。
時間稼ぎにしかならないかもしれないけど、桜にしかできない事だ。
(ここで死ぬとしても飛び込んでよかった…このままだったのならこの男の子は間もなく死んでいた……。)