第76章 始まるGW
勇「だって桜…、これじゃまるで…、まるでもうお嫁に行くような空気じゃないか……。私はてっきりもっとカジュアルな場だと…、」
「もう私、1回はお嫁にいったんだよ?今はお父さん待ちなの。」
その言葉に勇之は気管をヒュッと鳴らしてから俯く。
勇「杏寿郎くんが出来た男性だという事は分かっているさ。一族の恩人でもあり、桜を……深く愛してくれているのも感じる。そう、なのだろう…?」
杏「はい!桜さんを失った後も桜さんの事だけを考えて生きてきました!今世でも根底では桜さんの存在を忘れていなかったのでしょう。他の女性に興味を持った事はありません!合わせて70年、俺は彼女を忘れられずにいました!!」
その言葉に54歳の勇之は言葉を失う。
ただ『そうか…。』と言い、豪華な料理を綺麗に食べ始めた。
『杏寿郎さん、ナイスです!ああなれば折れる未来は近いですよ…!』
勇之を見つめながら桜は杏寿郎にこそこそ声でそう耳打ちする。
桜は知らなかったが、杏寿郎は出来る事なら早く結婚してしまいたかったが故にこの席を設けた。
それが報われると杏寿郎は口角を上げる。
杏(桜が踏み出せないのはお父様の気持ちの問題が大きいだろう。確かに桜はまだ22歳と若いが俺は28歳だ。適齢期と言える。どちらかが適齢期であり共に成人なのであれば何も問題はない。)
杏『折れればその分早く結婚しよう。子供は後で作るのだから今とさほど生活は変わらない。構わないだろう?』
『か、変わらないならしなくても…。結婚式挙げるのって準備大変なんだって聞きました。社会人1年目でそんな余裕ありません。』
杏『俺だって手伝うんだ。何も君だけ頑張らなくて良いんだぞ。それに籍を先に入れておいて式は自分達のタイミングで挙げるという手もある。』
『う…。』
綺麗に返されると桜は何も言えずに眉尻を下げたまま口を噤んだ。
(昔も杏寿郎さんにこんな感じで説得されて婚約したなあ。)
そんな事を思いながら杏寿郎に『また後で話し合いましょう』と言うと改めて勇之に目を遣った。