第76章 始まるGW
杏「この桜色の色留袖だ。きちんと下がり藤の家紋も入れてもらってあるぞ。桜も俺達にとって思い出深い色なのでこれを選んだんだ。」
「わああ…素敵……。」
桜はいざ目の前にしてしまうとその色留袖の美しさに目を輝かせる。
一方、初めてそれを着る主を見た店員は熱心に『一度着てみてはどうか』と話し掛けてきた。
店員が男で、尚且つ明らかに桜に好意を持った目をしていた為 杏寿郎は少し渋る。
「着たいです!!」
杏寿郎の独占欲は桜のその一言によって燻り続ける事になった。
桜は他の女性スタッフに連れて行かれながら杏寿郎に眩い笑顔を見せて手を振る。
杏「……………………………………。」
杏寿郎も余裕を持って微笑みながらそれに手を振り返したが男の店員が桜がいる店奥を気にしてチョロチョロと動く度に気が立ってしまう。
杏(なかなか落ち着かない男だな。桜に気付かれないうちに牽制するか。色留袖姿を見せる事さえ面白くない。)
杏「すまないが…、」
「杏寿郎さん!」
杏寿郎が男に声を掛けるより早く、自身でテキパキと着替えてしまった桜が店の奥から出て来た。
杏寿郎はその似合いぶりに男を忘れてパッと顔色を明るくさせる。
杏「とても似合っているぞ。やはりこの色だと愛らしくなるな。それにとても華やかで君の雰囲気とも合う。」
「ふふ、ありがとうござ、」
女生「「一ノ瀬先生、煉獄先生、こんばんはー!!」」
その声に桜の肩が跳ねた。
駒校の生徒が通り掛かったのだ。
ここは学校近くのショッピングモールで今はゴールデンウィーク初日の夕方である。
それを失念していた桜はパッと顔を赤らめた。