第76章 始まるGW
「おねがい…秘密にして……。」
女生「え…………でも、学校中もう知ってますし……、」
「ううん!そうじゃなくて、煉獄先生に言わないで…!」
杏「む、どうしてだろうか。」
桜はいつの間にか音楽室の入り口に立っていた杏寿郎を見付けると思わず譜面台の陰にしゃがみ込んで隠れた。
杏寿郎は音楽室に入り、笑いながら桜に近付く。
吹奏楽部員達は礼儀正しく杏寿郎に挨拶をしながらも事の成り行きを楽しそうに見ていた。
杏「一ノ瀬先生?遅いので迎えに来てしまいました。ところで何故俺には知られたくないのでしょう。」
「……お疲れさまです。煉獄先生に知られると…少し厄介かもしれないと……思いまして…………。」
杏「ふむ。まあ良いだろう。もう終わったのなら一緒に来てもらえますか。」
その言葉に桜は小さく頷くと挨拶されながら音楽室を後にした。
そして丁度出たばかりの所で杏寿郎は振り返り、桜の赤い頬を撫でる。
杏「随分と頬が赤いな。そんなに恥ずかしかったか。」
「私は職場に持ち込まないようにしているんです。さっきは初めて口を滑らせてしまって…、」
杏「何故俺には言わないようにと頼んだんだ。」
杏寿郎は桜の後ろ、音楽室から様子を窺う部員達に許しを与えるように微笑んだ。
「あ、当たり前じゃないですか…!杏寿郎さん絶対喜んじゃうし…、」
杏「桜は恋人を喜ばせたくはないのか。驚いたな。」
「そ、そういう話じゃ…、」
杏「それに君はゴールデンウィーク中に行く場所を "普通" と言っていたな。明日は両家顔合わせの日だろう。君にとってこれは普通の事なのか?」
「そ……それは、」
桜が言い終わらないうちに音楽室から女生徒の嬉しそうな悲鳴が上がる。