第14章 初めての街
桜は杏寿郎が酒を選んでいる間酒屋の前で待つことになった。
桜が店内に入れば主人や客を驚かせて酒瓶が割れそうだからだ。
「なんか…ご主人の帰りを待ってる わんちゃんみたい…。」
しかし、"威厳がないと攫われて見世物屋へ売られるかもしれない!" と頭を振ると気持ちを切り替えてしゃんっと座り直す。
そうしてしばらくお店の前で営業妨害をしていた時だった。
―――『いった!喉引っかかった!』
「ん…?」
突如聞こえた声に辺りを見回すも、桜の周りには誰もいない。
(……誰だろう?痛いの…?)
そう意識を先程の声に向けたとき――、
ぐわんっと視界が揺れ、気が付くと先程の定食屋のお座敷にどたんと尻もちをついていた。
―――ガチャーーンッッ
突如現れた大きな白猫に騒然となる店内。
しかし当の本人が一番怖がっていた。
(なんでなんで!…杏寿郎さん!ど、どうしよう!…杏寿郎さん…!!何も言わないで来ちゃった…来ちゃったというか…なんでここに…っ!)
男「癒猫様ッ!?」
その声にハッとする。
(さっき聞こえた声と同じ声…。)
「あ、あなた!さっき、『痛い、喉に引っかかった!』って言いませんでしたか!?」
その男はよく見れば先程店内で好意の目を向けてくれていた男性だった。
「それに…さっきもこのお店にいたような…。」
男「え…は、はい!!魚の骨が…引っかかって…でも大きいものじゃないので大したことは…!」
男「あと…確かに先ほど癒猫様がいらした時ここにいました…!しばらくその事で盛り上がっていて…今冷めたご飯をたべていたところで…。」
自分を怖がらないでいてくれる人がいて幾分か桜に余裕が生まれる。
「そうだったんですね…。何で聞こえたんだろう…さっき言った声、聞こえたんです。酒屋さんにいたはずなのに…。それから、大したことないと言っても気になるので…出来たらちょっと喉を見せてもらえますか……?」
そう言うと、困惑しながらも頷いた男性の喉に手をやる。
大きな白猫が人の喉元に手をかける光景に周りの者は固唾を呑む。
―――ホロッ
桜が撫でると男性の口から骨が転がり落ちてきた。