第14章 初めての街
「ごちそうさまです!」
桜は満足気に顔を上げるとそう言った。
それと同時に、今まで感じた事のない妙な胸の温かさを感じた。
(………?…満たされる、ような…何だろう?)
杏「美味しかっただろう!!…美味い!!!」
食事中の杏寿郎に大きな声をかけられ、ビクーンと桜の体が跳ねる。
「は、はい!!味がよく染み込『美味い!!』…でて、ご飯についた『美味い!!』…ご飯についた汁がま『美味い!!!』……………。」
杏「美味い!!!」
桜は、話しかけておいて放置する杏寿郎を じとっと睨むと背中を向けて尻尾でばしばしと叩く。
それでも杏寿郎は動じず、最後まで食べ終わるときちんと包みを畳んだ。
杏「桜!どうした!」
とても上機嫌な杏寿郎が毒気を抜く満面の笑みで訊く。
桜はどちらかと言うと、杏寿郎側の人間だった。
人に不満をぶつけたり拗ねたり、そういう事は殆どしなかった。
それを止める側の人間だった。
それが、杏寿郎の前だと何故だかたまに変な態度を取ってしまう。
そしてそれは杏寿郎の笑顔によって終わるのだ。
「…いいえ!もう少し街を見てもいいですか?」
林の手前まで遠巻きに人が集まっていたが、杏寿郎と桜が立ち上がると道を空けてくれた。
「…あ、そうだ………。」
桜は大通りに向かう途中で槇寿郎との約束を思い出した。
「杏寿郎さん……そ、その…高いお酒がどうしても欲しいのですが……お金貸していただけたりしますか…?」
杏「ああ!いいぞ!!父上も飲むのだろう!奢らせてくれ!!」
あっさりとそう言って笑う顔には裏表がなく、ただただ 関われて嬉しい、そんな気持ちが溢れていた。
(真っ直ぐすぎて胸が痛い…槇寿郎さんは何でこんなに良い息子達と距離を置いているんだろう……。)
そう思うと桜はもどかしさから思わず俯いた。