第76章 始まるGW
「うん、クラ指が回るようになったね。練習してるのがよく伝わってきたよ。あとは連符前の伸ばしにも意識を向けてみてね。ペットもすっごくピッチ合ってた。その調子でパーンッて狙った音を1発で出せるように頑張ってね。ここは主役らしく堂々といこう。」
桜の言葉は要するに『連符を意識するあまりその直前の音が伸ばしきれていない、音程を気にするあまり音の勢いが削がれて主役の華やかさが失われている』という意味だった。
何となく聞いただけでは只の褒め言葉に聞こえてしまうが、部員達は驕らずに真意を汲み取って見事次の合奏までには調整してくる。
(高校生の伸びしろってすごいなあ。)
桜は幾人かの生徒が合奏中にもきっちりと難しい筈の課題も修正し終えたのを聴いて感服した。
「うん!すっごく良くなった!!あとは後半に余裕を持っていきたいかな。走り込みはしてるよね?」
陸「はい!!」
「何周?」
陸「外周8周です!」
「え?たったそれだけ?」
ここに来て初めて桜はキツいとも言える言葉を吐いた。
『外周は百周するものだ』という意識が残っていたのだ。
「あ……、ごめんね。前にとんでもないスパルタ指導を受けたことがあって感覚が狂ってたみたい。よし!私も一緒に走る!15周は頑張るよ!」
その言葉に少しだけ間があいた後 生徒達は大きな声で返事をした。
翌日の5月の初日であり、ゴールデンウィークの初日、朝から楽器を持つ前に吹奏楽部の面々は校舎周りを走っていた。
それを道場から道着姿で出てきた杏寿郎が見付ける。