第14章 初めての街
優しい声音の杏寿郎を見上げる。
(でも……さっきから杏寿郎さんのお腹の音が尋常じゃないのよね……。)
それなのに自分を案じてくれる優しさに、じーんと胸が温かくなる。
「あの、じゃあ包んでもらうことは出来ませんか…?汁気のない物じゃないと叶わないですが…。お店の中だと…その…嫌がる方もいらっしゃるようなので…。」
そう小声で杏寿郎に言うと店内をちらっと見る。
杏「頼んでみよう。」
杏寿郎は、そう柔らかく笑いながら ぽんぽんと頭を撫でると店主に向き直った。
―――――――――
「はぁぁー…。」
大通りからのびていた小道を抜け、林の手前まで走ると二人は腰を下ろした。
杏「気が回らなくてすまなかった。怖い思いをさせるとは…不甲斐ない。」
「!…いえ!ごはん屋さんに入ったらどんな反応をされるのか知るのも成果ですから!それにご飯、ちゃんと買えましたしね!」
そう言いながら杏寿郎が持つ尋常じゃない大きさの包みを見た。
好意を持った目で見ていた者は奢ってくれたりもしていた。
(何人前なんだろうなあ……。)
そう思っていると目の前にスッと鯖と茶色いごはんのおにぎりのような物を差し出される。
杏「鯖煮定食を使って食べやすいよう握り飯にしたらしい。客の一人が君にと店主に頼んだようだ。」
「ありがとうございます…。」
(私の為に…確かにおにぎりならこの口でも食べやすいかも…。)
桜は心がほかほかするのを感じながら、"いただきます!" と言った。
―――はぐはぐ
杏寿郎は初めて美味しそうにご飯を食べる桜を見て嬉しそうに口角を上げた。
杏「いい食べっぷりだ!」