第75章 とある日曜日
「ごちそうさまでした。」
桜はそう言いながら綺麗に手を合わせて目を瞑る。
杏寿郎もそれを真似て目を瞑ると静かに『ご馳走様でした。』と言った。
(ナイトバージョンなのかな。『うまい』も静かだったし…かわいい。)
そう思いながら頬を緩ませる桜を杏寿郎は目を開けてじっと見つめる。
杏「考えている事が表情に出ているぞ。」
「えっ、あ……ごめんなさい、つい…。」
桜は眉尻を下げて少し申し訳無さそうにしながらも微笑んだ。
「ではお詫びも兼ねて、たまにはご馳走させてくださ、」
杏「それは駄目だ。」
「え…でも……流石に…私今までのデートで何も、」
杏「君はこういう時、男を立ててくれるのではないのか?」
杏寿郎は余裕のある笑みを浮かべるとそんなずるい言い方をして店員を呼び、カードを渡してしまった。
何も言えなくなってしまった桜は眉尻を下げながら店員が持ってきた控えに微笑みながらサインをする杏寿郎を見つめる。
杏「桜、君はまだ社会人になったばかりだ。そんな君に奢られては男が廃る。……美味かったか?」
杏寿郎がカードを仕舞いながらそう訊くと、牛たんを思い出した桜は食い気味に頷いた。
杏寿郎はそれを見て嬉しそうに眉尻を下げながら笑う。
杏「そう思ってくれるだけで十分だ!」
「ありがとうございます…。杏寿郎さん、ごちそうさまです。」
桜は少しだけまだ困ったような色を残していたが改めてそう言うと微笑んだ。