第74章 ※力加減
杏(やはり大きさからして俺の手だろう。……痛々しい。)
「杏寿郎さん……。あ、でもほら、杏寿郎さんの印、ですよ!」
桜がそう言って笑うと杏寿郎は眉を寄せる。
杏「これは怪我だ。君に怪我をさせてまで俺の印を残す気はないぞ。」
「……でも、痛くないですよ。あまり気にしないで下さい…。」
そう言って心配そうにする桜を見つめると杏寿郎は深く息をついた。
杏「桜、俺であろうと自身を傷付けた者をすぐに許すな。君の "此処" は丈夫に出来ているようだが、他は違うんだ。」
そう言いながら "此処" を示す桜の腹を優しく撫でる。
杏「君を前に貪欲になった俺が我を忘れて君の手首を折ってしまったらどうする気だ。」
「杏寿郎さんはそんな事しないもの。そんな事よりこっちにも湿布貼ってください。早くもう一度したいです。」
それを聞いて杏寿郎はぽかんとしてしまった。
杏「…………怖くないのか。」
「え……?よりにもよって杏寿郎さんが、ですか…?怖くないですよ。さっきだってなんだかんだ私の反応を見ながらしてくれてたじゃないですか。杏寿郎さんはご自身をもっと信じてください。」
そう少し叱るように言うと桜は湿布が貼られた手で困ったように笑う杏寿郎を寝室へ引っ張って行った。