第75章 とある日曜日
それからいつもより多く愛し合った後、2人は緩い幸せが漂う空気の中 裸のまま抱き合って話をしていた。
だが、痴漢騒動の話になると空気は一変する。
杏「では君は誰に尻を揉まれても良いのか。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな…良いってわけじゃな、」
杏「だが今確かに『証拠を得る為なら尻だけは妥協出来た。』と言っただろう。」
「それは……避け続けるだけじゃ根本的な解決にならないと思ったんです。やめさせる材料が無ければ…しっかりと叩きのめさなければ火は消えない、と。それには何かしら身を削るくらいの覚悟が、」
杏「桜。」
杏寿郎は桜の言葉を遮り、両手で頬を包むと大きな燃える目を真っ直ぐに向けた。
杏「俺も君の出した結果自体は良いものだったと思っている。あそこまで反省させるとは見事だ。だが、そういった証拠ならば、触ろうとする生徒と抵抗する君の会話を録音するだけでも十分だったのではないか。それなら触らせずに済んだだろう。君は体を張りすぎたと思うぞ。」
「わ、私、あの子達に相当なめられてます。多分それじゃ『自分の声じゃありませーん』って言われちゃいま、」
杏「そもそも君は俺を頼るという考えは思い付かなかったのか。確かに俺は君に家庭に入ってもらいたいと思っているが、君1人では力及ばずに痛い目に遭って『社会は怖い』と身を持って痛感して欲しいなどとは思っていなかったのだぞ。」
「………あ………………ぅ…。」
杏「無意識的にその手を無いものと考えていたか。まあ、……分かってくれたのなら…それで良い。桜、頑張ったな。」
「え…………あ、ありがとうございます……。」
杏寿郎は小さく息をついた後 戸惑う桜を優しく抱き寄せて頭を撫で続けた。