第72章 始まる学校生活と懸念
杏(こんなに隠さず早く知られた方が桜の身の為なのではないのか。)
杏「桜、今日 尻を揉まれたそうだな。何故抵抗しなかった。」
感情を感じさせない声色でそう問うと、杏寿郎はエンジンを掛ける。
一方、桜は青ざめていた。
「い、一度だけ確かにもみっとされた感覚はあったのですが、人混みの中でしたし証拠もなくて…。」
杏「そうか。」
杏寿郎は短く返すと暫く黙り、重い沈黙をたっぷりと与えてから再び口を開く。
杏「やはりもっと早く家庭に入ってはどうだ。君は教師として熱意があるし、それは俺も認めているが 早くもこれではパートナーとして心配するのが普通だろう。『頼めば何でもしてくれそう』、らしいぞ。君の印象は。」
「何でも……。」
杏寿郎の気持ちを真剣に考えた桜はすぐに反論せず、ただそう繰り返した。
そして目を伏せると気まずそうな声をだす。
「私は……小さい頃から先生に憧れてきました。」
予想通りの言葉にハンドルを持つ手に力がこもった。
しかし桜の言葉はまだ続く。
「それでも私にとって1番大切なのは杏寿郎さんです。あなたに嫌な思いはさせたくない…。ちゃんと話し合いましょう。」
頑なな一面を持つ桜がそのような事を言うと想像していなかった。
杏寿郎は目を大きくさせながらこもってしまった手の力を抜くと頷く。