第72章 始まる学校生活と懸念
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学校に着くと桜は初めて自身で車から降りようとした。
しかし相変わらずシートベルトで手間取り、更に力が弱くてすぐにドアを開けられない。
そうしてワタワタとしているうちにあっと言う間に杏寿郎が開けに来てしまった。
杏寿郎は頬を膨らませる桜の手を引いて下ろさせると謝るように頭を撫でた。
「が、学校では撫でるのも無しです!」
杏「まだ時間が早い。この時間に来る車通勤の教師はいないぞ。」
そう言うと柔らかく優しい表情を浮かべながら再び桜の頭を慈しむように撫でた。
杏「本当にすまなかった。だが生徒に注意をし、挨拶をするには窓を開けなくてはならなかったんだ。あの生徒の他にも挨拶すべき生徒がいたからな、 "俺に" 気付いてもらう為にわざと開けた。だが君には窮屈な思いをさせてしまったな。すまない。体は痛くないか…?」
「え………………あ、私……、」
( "わざと" って私を見せようと窓を開けたのかと思っちゃった…そうだよね、挨拶するには窓開けるよね…。)
「ご、ごめんなさい!私勘違いしてしまって…、杏寿郎さんがただ私に意地悪して窓を開けたのかと…。子供みたいに拗ねて本当にごめんなさい…。」
杏「ああ、そうだったのか。気にしないでくれ。そう思っても仕方の無い状況だった。余裕も無かったのだろう?気付いてやれずすまない。」
「いえ…!謝らないでください……!!」
勿論、杏寿郎は桜を見せようとしていたし 微塵も反省をしていなかったが、桜は心から反省して恥から顔を赤くし眉尻を下げに下げていた。
その言いくるめ易さと恥じた顔が愛らしくて杏寿郎は抱き寄せると髪にキスを落とした。
それでもしおらしくなってしまった桜は抵抗しない。
杏(……早く噂が広まると良い。)
そう思いながら杏寿郎は遠くから聞こえる登校中の生徒達の声を聞いていた。