第72章 始まる学校生活と懸念
杏「急にどうした。」
「えっ!?」
盗み見たつもりだった桜は肩を跳ねさせる。
2人の寝起きの良さから時間の余裕はまだ十二分にある。
杏寿郎は発車せずに桜の頬を指の背で撫でて言葉を促した。
すると抗えないように桜は口を開く。
「杏寿郎さんのスーツ姿……記憶が戻ってから初めて見たから…………かっこいいなあって……。」
そう言っているうちに桜は真っ赤になって目を閉じてしまった。
杏寿郎はきょとんとした顔をすると、目を閉じているのを良い事に桜にキスをした。
「んっ!んーーっ」
杏「夜まで2人きりになれないのだから今は許してくれ。」
杏寿郎は唇を離すと額を合わせ、拒もうとする桜の手首を呆気無く捕まえた。
「そん、なっ」
もう気持ちを入れ替えていた桜は仕事中にキスをされたような気分になってしまっていた。
杏寿郎は再び味わってから口を離すとその赤さに微笑み、愛おしそうに頬を撫でた。
杏「必ず一緒に帰ろう。時間が合わなければ職員室で待っていてくれ。男子生徒とは二人きりになるんじゃないぞ。」
杏寿郎の甘く有無を言わせない声色が車内に響く。
桜は答えを求めるように顔を覗き込まれると赤い顔のまま流されるように頷いた。