第1章 神様が望んだ関係
「ユキさま!桜餅ですよ!」
少女は嬉しそうな声を上げた。
そうすると崩れた建物の近くにふわっと白い姿が現れる。
真っ白で長い毛を風で揺らしている猫は七歳の少女より大きい。
『桜。』
その不思議な白猫は静かな声を出した。
『もう、ここへは来なくていいと言っただろう。』
その言葉に桜は俯く。
白猫はその様子を見てため息をついた。
『お前が反省していないのは分かっているから、その演技をやめておくれ。』
そう言われると桜は驚いたようにパッと顔を上げる。
そしてふわっとなんとも楽しそうに笑い、首を傾げて白猫を見つめた。
「ユキさまは何でもお見通しなのですね!」
それを聞いて白猫はゆらっと尻尾を揺らす。
『桜が嘘をつくのが不得意なんだよ。それに、嘘だと見通せていてもお前の落ち込んだような姿を見るのは辛い。』
しかし、桜は楽しそうにいそいそと桜餅のラップを外していて、あまり聞いてくれていないように見える。
それを見ながら白猫はまたため息をついた。
「はい、どうぞ!」
『………』
白猫は桜にどうしても弱かった。
桜は鼻先まで桜餅を持ってきている。
直接食べさせるつもりなのだろう。
白猫が仕方なく口を開けると桜は嬉しそうに目を細めながらそっと舌の上に桜餅を置いた。
(あ…少し濃くなった…。)
桜は白猫の透き通るような毛が強い白に変わったのを見てほっと息をついた。