第1章 神様が望んだ関係
「ユキさま!ユキさま!」
小さな女の子はそう呼びかけながら、桜餅の乗った皿を両手で持って走っていた。
少女の家の裏には小さな山がある。
その頂上までは古い石の階段が伸びていた。
それはよく見れば昔は立派であっただろうと判るが、今はもう 両脇から草が伸び、隙間からも雑草が生い茂っている。
誰もが第一印象に抱くのは"不気味"といった感情だろう。
"ユキさま"が呼んでも出て来てくれないのはいつもの事のようで、少女は負けじと長い階段を登っていく。
「はあっ、はあっ…」
少女の息が白く残る。
最後の一段を登り切り、少女は拓けた空間を見つめた。
そこにあるのは、石畳で出来た道と、その先にある崩れた大きな木造の建物の残骸のみ。
少女が一人で来るには不釣り合いな雰囲気が漂っていた。