第70章 お許しと引っ越し
それから2人は昨夜のやり直しのように仲良く風呂に入り、笑いながら互いの髪を乾かし合った。
「失礼します。」
先に寝室に入っていた杏寿郎はベッドに胡座をかきながら遅れて入ってきた桜を改めてまじまじと見つめた。
桜はスウェットや部屋着ではなく、正統派のパジャマを着ていた。
全体はネイビーで小さな白い猫が散った柄であり、襟や袖はとても控えめな白のレースリボンが縫い付けられている。
甘すぎない物ではあったが、どこか幼く見え庇護欲が刺激される姿であった。
杏「愛らしいな。不似合いな俺の服を着ている姿も良かったがそれは非常に似合っていて真っ当な魅力がある。おいで。今日はゆっくり寝よう。」
褒め言葉を立ったまま顔を赤くして聞いていた桜はその顔を隠すようにすぐにベッドに潜り込んで杏寿郎の手を引いた。
ベッドの上に居た杏寿郎はそれを見ると笑いながら掛け布団を捲り、少し照れながら見上げている桜の頬を撫でてから隣に入り ぎゅっと抱き締めた。
杏「今日は長い1日だったな。記念日にしようか。君と3度目の再会を果たした日だ。」
「……はい。」
杏「同棲も始められた。」
「本当、盛りだくさんです。」
杏寿郎は笑うとベッドサイドテーブルに置いてあったスマホを手に取り、スケジュールに1年周期の予定を入力しようとした。
杏「4/10……いや、付き合ったのは昨晩か。」
「あ、確かにそうですね。でも今日の方が大事かな…。杏寿郎さんにとっては43年と2年を経ての再会ですもんね。」
杏「うむ。では今日を2人の記念日にしよう。」
桜はそう言いながら嬉しそうにスマホを弄る杏寿郎を見つめると頬を緩ませる。
「記念日の名前は何ですか?」
杏「むぅ………………、」
「難しいですね…。」
杏「今朝のあれが君の逆プロポーズなら分かり易かったのだが。」
「プロポーズはされたい派です。」
杏「任せてくれ。」
そんな会話をしているうちに早朝から動きっぱなしだった2人は眠くなってしまい、結局記念日の名前は決まらないまま眠りに就いてしまったのだった。