第70章 お許しと引っ越し
桜はそれを見ると急いで立ち上がり、大きすぎるリビングテーブルを回って杏寿郎の頭を抱き寄せた。
『ずっと楽しみにしていた』のが10年、20年の話ではないと気が付いたからだ。
「ごめんなさい!!家庭に入りますし10人でも産みます!!!」
それを聞いた杏寿郎の顔からは先程までの悲しそうな表情が嘘のように消えていて、代わりに満足そうな微笑みが浮かんでいた。
だが頭を抱いていた桜はそれに気付かない。
杏「……そうか。ありがとう。君の気持ちをとても嬉しく思う。」
それから2人は話し合い、妊娠適齢期である35までに6人を産めるように努めることとなった。
「そう簡単に妊娠できるものなのでしょうか。なかなか出来ないって話もききます。」
杏「以前声を掛けられた友人に引き摺られて精液の調査に参加した事がある。俺の精子は多い上に気持ちが悪いほど活発だった。妊娠しない未来は見えないぞ。だが遅くとも30からはずっと励んでもらう。余裕を持って28くらいで退職してはどうだ。」
「そう…ですね……。杏寿郎さんの言う通りにします。」
しおらしいモードに入っていた桜は呆気無く杏寿郎の望みを受け入れ、まだ婚約もしていない2人は大事な人生設計を立ててしまった。
杏(桜は本当に操り易いな。この様な子はとても外で働かせられない。6年間何もなければ良いが…。)
杏寿郎はそう思うと桜の頭を褒めるように撫でながらも気付かれないように小さく息をついた。