第70章 お許しと引っ越し
―――
杏寿郎は大量に作ったご飯を食べ終わると綺麗に手を合わせて『ご馳走様でした!!!』とまた大きな声を出した。
そして桜がそれに『お粗末さまです。』と笑うとスッと真顔になる。
杏「君は料理もとても上手だ。味は勿論格段に良いし きちんと主食に一汁、主菜、副菜、副々菜とあり、それぞれに相応しい食べ物が綺麗に揃っていた。元々、家庭に入るべくして育てられたのではないのか?」
「あ、ありがとうございます…。でも母が専業主婦だったのでその通りに教わっただけですよ。家庭に入れるように…とは母も考えていなかったと思います。」
杏「そうなのか。俺としては君が家庭に入ってくれた方が安心なのだが…。いや、そもそも産休だけでなく育休も必要だ。6人分を考えれば穴を空けるどころか元々働く時間など無いのではないか?」
「あの、その事なのですが……6人より少なくするという案はないのでしょうか…………?」
その言葉を聞くと杏寿郎は目を見開いて口を閉じた。
それを見た桜は喉をこくりと鳴らした。
杏寿郎が纏う空気がピリッとしたものに変わったからだ。
杏「……約束したろう。君が望んだ数だぞ。」
「きょ、杏寿郎さんが最低は5人欲しいと言った時に圧されてしまって…。」
杏「そうだとしてもだ。君は軽く発言したつもりであったようだが俺はそれを信じてずっと楽しみにしていたんだぞ。」
そう言い終えた杏寿郎はピリついた空気を解き、少し悲しそうな目をして視線を机に落としてしまっていた。