第70章 お許しと引っ越し
杏「楽しみだ!!いや、もう既にとても楽しい!!!」
「うん、とっても楽しそう。」
杏寿郎は近くのスーパーでカートを押しながら満面の笑みを浮かべていた。
隣を歩く桜も杏寿郎の大声によって注目を浴びてしまっていたが微笑んでいる。
「私もとっても楽しいです。ですが 杏寿郎さん、少し声が大きいですよ。近くの人の心臓を止めてしまいそうです。」
杏「む、それはまずいな。しかし君とこういった店で買い物をしているのが堪らなく幸せなんだ。……いつかここに子供も加わるのだろうな。」
桜は杏寿郎の優しい瞳を見ながら以前は授かれなかった子供をこれからはきっと2人で育むことが出来るのだと思い胸がきゅうっとなった。
(昨夜お風呂で抱いた違和感はこれなのかな。子供の事を考えると変な気持ちに……いや、ちがう。たぶん6人問題のほうが気掛かりだったんだ……。6人…そんなぽんぽん産める気もしないし、どうしよう…お仕事もまともに出来なくなりそう……。)
杏「桜?」
気が付いたら足が止まっていたらしく、杏寿郎が心配そうな表情で顔を覗き込んでいた。
桜はその問題の6人を諦めてくれそうにない張本人と目が合うと肩を跳ねさせる。
(今からでも提案し直してみる……?あ、でも杏寿郎さんのご実家で言ってしまったんだった……。何歳まで子供を産めるんだろう。とにかく結婚してすぐは作っちゃだめだ。きっと杏寿郎さんは最短の1年で結婚したがるもの…。就職して1年で産休なんてとても…、)
杏「桜、本当にどうしたんだ。具合いが悪ければ帰ろう。手料理はこれからいつでも機会がある。今日でなくとも構わないんだぞ。」
そう体を心底心配して大事にしてくれる杏寿郎を見ると桜は思わず眉尻を下げて安堵から涙を溢しそうになった。