第70章 お許しと引っ越し
杏「分からないのか。君がそこまで悪い人間ではないと感じたから 今すぐ彼女をあのマンションから引き離す代わりに君が彼女に今までしてきた事を水に流してやろうと言っている。随分と譲歩した筈だが何が気に入らない。」
男「……これから彼女と挨拶できないのだと思うと苦しくて耐えられそうにない…。もうしませんから連れて行かないでください……。」
そのしおらしい声にピリピリとした空気を纏っていた杏寿郎は目を丸くした後 呆れた顔になった。
杏「無理な相談だな。今度こそ終わりだ、失礼する。」
そう言って立ち尽くす男の目の前を杏寿郎が通り過ぎようとした時、男はカッとなって杏寿郎に掴みかかろうとした。
杏寿郎は敢えて掴ませると至近距離からその赤と金色の瞳で男の目を射抜く。
男「……ッッ!!!!」
杏寿郎の至近距離から放たれた殺気をもろに食らってしまった男は腰を抜かして尻もちをついた。
それを杏寿郎は真顔で見下ろす。
杏「気持ちでも力でも負ける気はしない。潔く諦めてくれ。」
そう言うと杏寿郎は男を置いてマンションへ帰った。
「あ、おかえりなさ、」
杏「桜、すまないがやはり今夜から俺の家へ移ってくれ。隣の "親切な" 男がストーカーだ。ある程度の荷物は纏めたな?あと何か忘れ物があればその都度俺が取りに帰ろう。君はもうここへ近付いてはならない。いいな。」
桜は驚いて眉尻を下げながら素直に何度も頷いた。
そしてキャリーバッグ1つで桜の仮引っ越しの荷物は纏まったのだった。