第70章 お許しと引っ越し
「え…?私も一緒に行きますよ。」
杏「いや、君は待っていてくれ。マンションの目の前のコンビニだ。すぐに戻る。絶対に1人で外に出てはならないぞ。鍵も俺が開けるので君からは開けるな。」
風呂上がりだというのに杏寿郎は新しい下着を身につけると元々着ていた服に再び袖を通しスマホ片手に家を出た。
すると杏寿郎が察知した通り隣に住む "親切な男" が廊下に立っている。
杏寿郎は軽く会釈をしてその脇を通るとエレベーターではなく階段を使って下っていった。
下っていく途中でエレベーターが上がり、桜の部屋がある階に止まったのを確認する。
杏(うむ、きちんと俺の方に来たな。)
杏寿郎は今度は下っていくエレベーターを見ながら速度を調整し、丁度自身の背中を男が追えるようなタイミングでマンションを出た。
通りを渡り、コンビニより手前でピタリと足を止める。
杏「君は桜にストーカー行為をしていたな。ドアノブに如何わしい物を掛けるだけで済んでいたのか。」
続いて振り返り大きな目で男を見つめる。
パーカーのフードを被っている男は驚いて目を泳がせた後 俯き、拳を握った。
男「……さっきの声は何だ…桜さんに……何を、あんたは……、」
杏「桜を抱いていただけだ、分かるだろう。俺は桜の夫だ。桜は今から俺の家へ連れて行く。あの部屋にあるものは俺が取りに来るか処分する。なので彼女の事はキッパリと忘れてくれ。この話はこれで終いだ。」
そう言うと杏寿郎はコンビニへ入る。
そして適当に買い物をすると外に出てまだ動かずに立っていた男を見て眉を顰めた。