第70章 お許しと引っ越し
杏「何をしている。」
杏寿郎の視線の先では桜が鞄から出したハンカチを使い 慣れた手付きで家のドアノブを拭いている。
桜は一瞬固まった後 あからさまに『しまった』という顔になった。
「……その、このくらいの時間になるとこんな風に汚れる事が多くて…。でも私今まではこれが何か分からなくて……、誰がしてるのかも検討が……あっ、」
杏寿郎が問答無用で取り上げたハンカチには明らかに精液だと思われる白濁液が付いている。
杏「陰湿で悪趣味なストーカーだな。それも厳重な二重のオートロック内だ。桜、この階に面識のある者はいるか。」
「え、えっと、そっちの2個隣は綺麗なお姉さん。1個隣は仲良しカップルさんで、こっちの1個隣はとっても親切な男の人です。あとは特に…。」
杏「丁度良い、寝室もこちら側だったな。」
「………………え……?」
杏「何でもない!災難だったな。だが俺が居ればもう安心だ!!」
「はいっ!!」
桜は杏寿郎の不穏な空気に気付かずに嬉しそうに微笑んだ。
そしてその後すぐ、杏寿郎は甘い悲鳴を隣の男にたっぷり聞かせるように酷く激しく桜を抱いた。
桜は自身のマンションが杏寿郎のマンション程 壁が厚くない事を知っていた為『あけすけにするのが好まれないのなら今は声を抑えた方がいいのでは』と言ったが、『昨夜は恥じないように壁が厚い事を伝えただけで あれはそもそも尊い行為だ』と無茶苦茶な事を信じ込ませ、声を出させたのだ。