第13章 お館様
途端に杏寿郎さんが頭を下げ、
杏「はい!!」
と答える。
それを見た桜も空気を読んで頭を下げた。
するとスッスッと静かに襖が開く。
桜の耳に聴こえるのは二人分の足音。
一人は重く擦るような音を立てている。
?「顔をお上げ。」
そう言われおそるおそる顔を上げる。
そこには黒髪に物腰の柔らかい男性が立っていた。
その横にはあまねによく似た少女。
その子は男性を導くように手を握っていたが、男性が座るとスッと部屋を出ていった。
(そうか…この方は目が見えないんだ…。)
「一ノ瀬 桜と申します。貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます。」
想像とは違ったけれど、直感的にこの人が"親方様"だと感じた。
杏寿郎はただ桜の挨拶に合わせるように頭を下げる。
(そうか、杏寿郎さんには取り持ってもらっただけであって、これは本来は私とこの親方様の二人だけの席なんだ。)
親「ありがとう、桜。」
男性はふわりと笑う。
(聞き心地のいい不思議な声…。)
親「杏寿郎もありがとう。では、少し二人きりにして貰えるかな。」
杏「はい!!」
杏寿郎は一度桜を見て、 "大丈夫だ!" というような明るい笑みを浮かべてから席を立った。