第70章 お許しと引っ越し
杏「はい!桜さんから無くなるとは聞いていましたが……本当に立派な旅館だったので残念です。」
由「私も写真じゃなくて本物を見てみたかったわ。」
ユ『あの時代では私にとっても1番思い入れの強い場所だった。あそこが信仰を取り戻すきっかけの場所だったからね。あっと言う間に増え、目まぐるしい日々となったが……、』
「ね、私より圧倒的にユキが働いてたよね。」
そんなやり取りをする1人と1匹の隣で瞳を震わせていた勇之が喉をこくりと鳴らす。
勇「では……杏寿郎くん。一ノ瀬屋と共に空襲で燃えた掛け軸の言葉を……、私の父の代からは口伝いでのみ伝わった言葉を読んだことは……?」
そう問われると杏寿郎は顎に手をやって斜め上に視線を遣る。
杏(掛け軸……客室ではないだろう。大部屋も本来なら客に提供する場だ。それなら可能性があるのは重勇さんと初めて話した時に通された部屋か。あの時何かを思った……、たしか、『なるほどな』、と。そうだ、 "そのままの事" が書いてあった。)
杏「……『堰き止めし勇はそこに道を繋げけり』。氾濫を止めた忠"勇"は様々な道…人々の命そのものや田畑などの生きる為の"みち"を救い、後世に繋げた。つまりは一ノ瀬家長男の名の由来でしょう。」
「そんな事書いてありました?」
杏「君は文字が読めなかったろう!!」
そんな会話をする2人の前で見事に言い当てられた勇之はとうとう白旗をあげ、全てを受け入れると笑いだした。